2ntブログ

いちろぐ。

学園もの

第1話


 それは新学期がはじまってまだ二週間余りのことだった。

「俺が……クビ……ですか……?」

 週初めの職員会議が終わったあと、理事長室に呼ばれた俺に、緋川理事長はなんの前触れもなくその事実だけを告げた。

「あらあら、神藤先生、これはまだ正式に決まったことではないのですよ。正式な決定は三ヶ月後の"学生会議"によって決まる手筈になっていますから。」

 落胆を隠せないでいる俺に、理事長は慰めるような口調で語りかける。しかしその口調とは裏腹に、銀縁眼鏡の奥では冷徹でサディスティックな目が俺を睨みつけていた。

「ですが、これはあくまで生徒の意見から出てきた解任要求ですからねぇ。"学生会議"で過半数の賛成票が集まることはほとんど決定事項かも知れませんわね、フフフ……」

 そう言って、若き理事長は口元をわずかに吊り上げる。まるで弱者を蹂躙することで快感を得ているかのように。

「せめてこの三ヶ月間はせいぜい悔いのないよう過ごすことですわね。もちろん、聖蘭学園の教師として相応しくない行動は謹んでくださいね、神藤先生」



 

 聖蘭学園は近年共学化されたばかりのお嬢様学園である。 共学化されたといっても圧倒的に女子学生の割合が高く、さらにここ数年、男子学生の割合は減る一方で、今年度の男子の新入生は僅か十名程度である。 そんな聖蘭学園は文武両道を理念としており、全国でもトップクラスの偏差値を誇りながらも、運動部の多くが強豪としてその名を知られている。

 俺、神藤有(しんどう ゆう)は現在その聖蘭学園の保健医を務めている。 前年度までは化学の教師をしていたのだが、前年度の冬、本来の保険医が急病で退職することとなり、たまたま資格を有していた俺が急遽代役を務めることになったのだ。

 聖蘭学園の保健医は、俺にとって天国のような職場であった。保健医という立場を利用し、保健室へ呼び出した女子学生と性的な関係をもつことが俺の日課となっていた。もちろんそんな危険な行為を繰り返すだけの知恵と道具を俺はもっている。本来化学が専門というだけあって、媚薬や精力剤、はては記憶を操作するような催眠薬の類までも所有し、使いこなすことができた。それらの効果と、俺自身のテクニックも相まって、俺は淫欲にまみれた保健医としての生活を謳歌していた。



 新学期になっても、新任の保健医は見つからず、俺は引き続き化学教師と平行して保健医代行を勤めることとなった。
 しかし新学期が始まって間もないころ、突然の宣告が俺を待っていた。

(ちくしょう……、あのババア……!)

 生徒会への現保健医の解任案の提出。その事実をこの学園の理事長、緋川玲子(ひかわ れいこ)から告げられたのだ。そしてその解任案が可決することはほぼ決定事項であるということも。

 聖蘭学園の生徒会は一風変わったシステムをもっている。 まず、生徒会は選挙により選ばれた生徒会長と、六つの部活動の部長の七人で組織されている。
 そしてこの生徒会の最大の特徴といえば不定期に行われる"学生会議"である。 この会議はその名の通り、教師などは一切関与しない、生徒会のみでおこなわれる会議である。この会議で過半数、即ち4人以上の賛成により決定した事項は絶対に取り消されることはなく、学生会議により校則が変更されるといったことも少なくない。 なぜこのようなシステムがあるのかはわからないが、古くからの伝統として現在まで受け継がれてきたものらしい。そのため、聖蘭学園の生徒会長、各部活動は、一般の教師以上の権力を握っているのである。

 そして今回、学生からの多くの意見があったとして、現保健医である俺の解任の是非が問われることとなった。通常、人事に関わるような重大な事項が学生会議に回されることはないのだが、今回学園創設以来初めてとなる直接的に現職教員の解任案が学生会議に回されることとなった。

(それもどうせ、理事長の差し金だろうな……)

 緋川玲子は数年前に父親からその座を譲り受けた聖蘭学園の理事長である。現在30代前半とのことだが、20代の俺と同年代に見えるほどの若さと美しさを併せ持つ。徹底した女尊主義者でも知られ、学園から男を排除し、女性だけの学園を創りだそうと画策しているとの噂もある。実際、ただでさえ少なかった男子学生の数がさらに減少しだしたのも、緋川が理事長に就任してからのことである。緋川就任の影響は男子学生だけでなく教師にも及び、能力の低い者や、職務上のミスをおこしたものは容赦なく首を飛ばされていた。

 一方俺はというと、教師としての能力は申し分なく、仕事でヘマをするようなこともないので、クビにしたくても出来ない理事長にはあまり快く思われていないようである。 俺自身は女子学生に疎まれるような教師ではなかったのだが、男性の保健医に嫌悪感を覚える女子学生が多くいるというのもまた事実であった。

(化学教師をクビになることはないだろうが、このまま保健医を続けることは難しいかもしれないな……)

 美しい理事長は女子学生からの支持も多く、学生や教師陣の中には『理事長派』と呼ばれる者たちも存在していた。
 そして、それは生徒会のなかにも━━。

 職員室から現在の俺の居城、保健室へと帰る途中、ブロンドのロングヘアーが美しい一人の女子学生が俺の前で立ち止まった。

「おはようございます、神藤先生。ご機嫌いかが?」

 聖蘭学園の生徒会長、三年生の北條エリカ(ほうじょう えりか)だ。近辺でも有名な名家の令嬢で、成績優秀、容姿端麗、女子学生からの支持も厚いというパーフェクトお嬢様だ。

「あぁ、おはよう。北條」

 軽く挨拶を返しながら目の前の美女を観察する。腰まで伸ばした美しいブロンドヘアー、キリッとした力強い目つき、文句のつけようのない抜群のスタイル。とくにその胸は学生とは思えないほど大きく、豊かに実った双乳がブレザーを押し上げていた。

「神藤先生、浮かない顔をしてらっしゃるけれど、なにか不愉快なことでもあったのですか?」

 そういうエリカは口元にうっすらと笑みを浮かべている。一見するといかにもお嬢様らしい優雅な立ち振る舞いだが、その目には人を嘲笑するような冷たさが含まれていた。

「ご心配どうもありがとう。あいにく生徒会長に相談するような困ったようなことは何もないよ」
「あら、そうですの?神藤先生は保健医となってからはあまり良い噂は聞かないものですから、なにか勘違いした不届き者から嫌がらせでもされたのかと心配しましたわ、フフフ」

 エリカはどうみても心配した様子ではなく、むしろ窮地に陥った俺の姿をみて楽しんでいるようだ。
 そう、生徒会長であるエリカは理事長派の筆頭で、すでに俺の解任案が学生会議に回されることを知っているのだ。

「あまり学園内で不審な行動をとらないことですわね、神藤先生。それでは」

 理事長と同じような忠告を残し、エリカは再び歩き出す。歩くたび男を誘惑するかのように揺れるエリカの巨尻を眺めながら、俺も再び歩き出す。

(ふん、男嫌いなところは理事長にそっくりだな。そのくせ男を誘惑するそのいやらしい身体も)

 エリカのあのグラマラスボディはたしかに魅力的だ。 日本人離れした抜群のスタイルに推定Gカップの巨乳。あの高圧的な態度も、そのいやらしい身体と相まってはむしろ魅力的に思えた。

(どうせクビになるなら、どうにかしてあの極上ボディを味わってみたいものだな)

 悲痛な宣告を受けた後にも関わらず、俺はそんなのん気なことを考えながら保健室へと向かうのだった。



 放課後━。
 今日は女子学生を抱く気にもなれず、学園内をブラブラと散歩していた。保健医という立場上、部活動に勤しむ女子学生たちの健康的な身体を視姦してもあまり不審に思われないのである。

 保健医でいられるのも残り三ヶ月程度。失意の俺の脚は体育館へと向かっていた。



「あっ、神藤先生。どうかされたんですか?」

 体育館でバレー部やバスケ部の見学をしていると、休憩中らしき一人の女子学生が俺の元へ駆け寄ってきた。

「やあ真下、がんばってるな。俺も一応保健医だからな、様子のおかしい子がいないか見回りをしているんだよ。」
「そうなんですかー。それじゃあ、先生のおかげで私達も万全の状態で部活動ができますね!」

 屈託のない笑顔で俺を見つめているのはバレー部の三年生、真下優奈(ました ゆうな)。一見おとなしそうな印象を受けるが、バレー部のキャプテンであり、すなわち生徒会のメンバーでもある。

「まあ、保健医としては当然のことをしているだけだよ。代行とはいえどね」
「えー、まえの保健の先生はこんなことしてませんでしたよー。やっぱり神藤先生は立派です!」

 もちろん俺の場合は下心から来る行動なのだが、優奈は素直に賛辞を送ってくれる。そんな健気な優奈とは裏腹に、俺の視線は優奈の身体を隅々までチェックしていた。
 申し分のないほどの美人でありながらも、誰からも好かれる愛嬌もあわせ持っており、まさに学園のアイドル的存在だ。髪は肩で切り揃えられており、清潔感がある。北條エリカにも勝るとも劣らないほどの巨乳は優奈が声をあげて笑うだけでもぷるぷると揺れ動く。バレーのユニフォームは汗で身体に密着しており、ピンク色のブラジャーが透けて見えていた。 そんな優奈の身体を眺めているだけでも下腹部が熱くなってくるのが感じられた。

「それじゃあ、俺は見回りを続けるよ。怪我しないようにがんばれよ、真下」
「はい!ありがとうございます、神藤先生。」

 ずっと優奈の身体を視姦しているわけにもいかないので、場所を移そうかと考えていたところ━━。

「おっ、優奈も休憩なんだー!ってあれ、神藤先生もいるじゃん。どうしたんですか?こんなところで」

 バスケ部のユニフォームを着た一人の少女が近づいてくるのが見えた。

「あー七夏ちゃん!お疲れさま~」

 優奈に七夏と呼ばれた少女は、日野七夏(ひの ななか)。優奈とは同学年の幼なじみで、バスケットボール部のキャプテンである。ということは優奈と同じく聖蘭学園生徒会のメンバーでもある。

「お疲れさま、日野。俺はこれでも保健医だからね、部活動中に怪我でもしていないか見回りをしていたんだよ」
「ふーん……、見回りねぇ……」

 そういって、少し懐疑的な眼差しで俺を見つめてくる七夏。
 ショートカットでボーイッシュな印象を受けるが、顔は優奈に劣らずの美人である。胸は優奈ほどではないが、なかなかの巨乳で、スポーツで引き締まった身体も魅力的だ。激しい練習の直後なのか、かなり汗をかいており、女の子特有の甘い匂いと汗の匂いがなんともいやらしく俺の鼻腔を刺激した。

「顧問の先生もいるから、神藤先生が見回りなんてしなくてもいいと思うけどなー」
「七夏ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ~」

 どうやら、七夏はあまり俺のことを良く思っていないらしい。まあそれでも理事長やエリカのような冷徹さは感じられないのだが。

「優奈も気をつけなきゃダメだよー。優奈の身体は男共にはとっても魅力的なんだから、神藤先生だってきっと見回りっていう名目で優奈の身体を見てたんだよー」
「なっ、七夏ちゃんっ!神藤先生はそんな人じゃないよー!」

 二人の様子を見るに、七夏は俺を嫌っているというより、幼なじみの優奈に近づく男に警戒しているような伏しがある。自分の身体だって十分エロくて魅力的なことには全く気づいてい様子だ。

「まったく、俺はそんなつもりで見回りをしてたわけじゃないんだぞ。まあでもさっき日野が言ってたことも一理ある。俺の見回りはここまでにするよ。がんばれよ、二人とも」

 これ以上いては七夏に嫌われるだけだと判断した俺は、体育館の見回りを終えることにした。

「はい!お疲れ様です、神藤先生」
「ふん、もう来なくてもいいですよーっと」

 対照的な二人に見送られ、体育館を後にする。

(優奈に七夏か……)

 外に出た後も、俺の脳裏には二人の健康的な身体が焼きついていた。 清楚な優奈も、男勝りな七夏も、どちらも同じくらい魅力的でいやらしい身体つきをしている。

(どうせなら二人ともいただいてやろうか)

 二人同時に若く引き締まったボディを見せられ、俺の淫靡な妄想は止まることがなかった。



 体育館を出た俺はグラウンドに向かった。
 聖蘭学園でグラウンドを利用している部活動といえば、陸上部のみである。数年前までは男子の野球部やサッカー部が存在していたのだが、男子学生の減少を理由に廃部となってしまったのだ。
 トラック競技やフィールド競技など各々のトレーニングに励む学生を眺めていると、グラウンドの隅で一人黙々とストレッチをしている少女が目に付いた。

「やあ、霧島。今日はもう上がりかい?」

 近づいて声をかけてみる。

「…………」

 少女はチラリと俺のほうを確認したかと思うと、またすぐにストレッチへと意識を集中させたようだった。

「ははっ、相変わらず霧島は静かなやつだな」

 そういって場を和まそうとしても、相変わらず俺などここには存在しないかのように、視線を合わせようともしない。
 彼女は二年生の霧島楓(きりしま かえで)、陸上部のエースである。個人実力主義の陸上部では二年生ながらキャプテンを勤めている。つまり、彼女もまた生徒会の一員なのである。無口な性格だが、部員や生徒会からの信頼は厚い。
 俺は黒髪のポニーテールをなびかせてストレッチに励む楓を観察する。凛とした精悍な顔つきには気品が感じられ、男だけでなく女子学生にも人気が高い。胸は程よい大きさの美乳で、楓が身体を屈めるたびに競技ウェアの谷間や脇下から柔らかそうな乳房を覗き見ることができた。短距離走で鍛えているだけあって、日焼けした足は優奈や七夏以上に引き締まっており、健康的なエロさがある。

「しかし、霧島がこんなに早く練習を切り上げるのは珍しいんじゃないか?」
「……っ!……別に……普通です」

 何気ない一言のつもりだったが、それまでは黙々とストレッチをしていた楓が俺の言葉に過敏に反応したかのように見えた。

「そうか……?それならいいんだが、なにか悩みでもあるなら、遠慮せず言ってくれよ」
「なっ、悩みなんてない……!それに、あったとしても顧問でもない神藤先生には関係ありません」

 邪魔者を追い払うかのように噛み付いてくる楓だが、そんな態度では悩みがありますと宣言しているようなものだ。

(決して他人に弱みを見せることのない楓の悩みか……。少し気になるな……)

 そう思ったところで今の俺にはそうする術もなく、これ以上楓の神経を逆撫ですることのないようこの場を離れることにした。

「まあ、顧問じゃないからこそわかることもあるかも知れないだろ?なにかあれば遠慮せず言ってくれよ。それじゃ」
「……お疲れ様です」

 楓の静かな、そして鋭い視線を受けながら、俺は軽く片手を挙げてその場を立ち去った。

 校舎へと足を向けながら、たった今別れたばかりの楓のことを考える。

(どうやら、なにか悩みがあるのは間違いないようだな……)

 いつも無愛想な楓だが、やはり今日はいつにもまして深刻そうな顔をしていた。

(しかし、やはりあの引き締まったボディと悩ましげな表情は魅力的だ。悩みを利用して近づいてみるか……?)

 楓の悩みなんかよりも、あの美しい肉体美を我が物にしたいというのが正直なところだった。

「さて、今日はもう帰るか」

 今日観察した美しい女子生徒とそのいやらしい身体を思い返しながら、俺は帰りの途についた。
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